MIDORI HARIMA 




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”裏側からの越境”展に寄せて



25歳の時に、日本以外を見てみたかったという理由で、アメリカ人のパートナーについていってサンフランシスコに引っ越した。30になる前に、アートを続けるのには比較的規模の小さなサンフランシスコを出たいと思って、ニューヨークに引っ越した。40代に入る頃に、アメリカを出ると決めて、日本に引っ越した。

外国で暮らす事は、局所的な地域性に囚われた自分自身が、異なる文脈の中で再検証され、解体され、相対化される経験だった。アメリカ滞在中に、出会った人たちの中でも、特に自分はアジアや南米、中東、アフリカなどの非―西洋圏の人たちから教えられる事がとても多く、年を経るごとに、欧米以外を新たな参照軸に、アメリカで暮らしてきた自分自身を再検証し、解体し、相対化したいという思いは大きくなっていった。今になって振り返ると、その選択は「悪い場所」から「良い場所」へと移動すること自体に纏わる非対称の力関係にも見られる、ヒエラルキーから脱却したいという欲求に根ざしていた。帰国後、文化庁の海外研修で一年間暮らした香港で再び出会った版画と、そこで暮らす外国人/非―市民たちの、絶対的ではない相対的なあり方に、ヒエラルキーを伴ったシステムからの脱却の可能性を見て、「版画」と「外国人としての立ち位置」のようなものを、考え方のモデルに使うだけではなく実際に、その技術と私自身の身体を使った制作の脱中心化の方法について、しばらく考えたいと思った。

今のスタジオに間借りをさせてもらったのは、藤沢に移ってきてから3年半後、2021年の初夏で、引っ越してきて間もない頃に、散歩で来てその場所を一目みた時からとても惹きつけられ、側を通る度にずっと憧れを感じていた場所だった。日本に戻ってきたとはいえ、自身の仕事を相対化するための軸が必ずしも日本にあるわけではなかった自分に、そこは「〇〇国」とか「XX市」とかいう具体的な場所を超えて、私が関わってきたさまざまな場所に共通する、独立性と自立性を持った自治区のように見えて親近感を覚え、ここなら自分自身の課題にまっすぐに取り組めるかもしれないと思った。その予感は当たっていて、どこの誰とも解らない私をあっさりと受け入れてくれた、偶有性に完全に開かれたそこの人たちと、窓の外に広がる自然環境は、自分自身の立ち位置や制作という行いを問い直し、相対化するに余りあるものであった。

振り返ってみると、自分の選択は、どうやったら主体的にアートを実践できるのかという問題意識に根ざして選ばれてきた。歴史が失われたとか、人類の時代の終焉が言われるようになって久しい今だからこそ、先人の取り組みや、失われつつある技術、捨てられていくものを敢えて再訪し、より広い環境と時間軸の中で、制作行為を俯瞰して位置付け直してみたかった。半径1キロメートルの世界を、時間的・空間的に、遠くの世界へと繋げようとする本展の試みは、「外側にいる人」としてのあり方を、作っている間は裏側からしか見ることのできない非―正面的で間接的な版画のあり方と、それ自体が独自の時空間でもある印刷物のあり方に重ね、意図的に正面からではなく、偶然に裏側からボーダーを越えようという試み/提案でもあります。


2022年10月5日 播磨みどり 藤沢市にて









ARTIST STATEMENT (2019)
TEXT ”Prints: A place for reality and fiction/印刷:リアリティとフィクションの場所”(2023)
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”裏側からの越境”展に寄せて(2022)
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“300日画廊と佐藤さんのこと” 300days Gallery and Sato Yoichi (2022)
REVIEW “ポリネーター展に見る「美術のおもしろさ」について” (2021)
TEXT “郊外の美術原理主義国家の法と倫理” (2020)
EXHIBITION STATEMENT ”Crossing The Boundary From Behind" 裏側からの越境 (2019)
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“ゴミをめぐる考察” (2017)
TEXT  "Democracy Demonstrates - What I have consumed in 90 days in Korea" Democracy Demonstrates - 90日間韓国で私は何を消費したか (2015)
BLOG "한국 길가 피크닉 - Roadside Picnic in Korea” 路傍のピクニック 韓国 (2015)  
TEXT  "The Roadside Picnic Chapter two" 路傍のピクニック第二章 (2014)
ARTIST STATEMENT (2011)
ARTIST STATEMENT (2008)
TEXT  "Story Spoken by Outline" 輪郭で語られる物語 (2003)
TEXT "Clean Castration" 清潔な去勢 (2001)




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